事例に学ぶ賃貸マンションEV充電 成功例から気を付けるべきポイントまで解説します
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EVの普及につれて、必要となってくるのが自宅での充電設備です。
マンションへのEV充電設備の設置ニーズは高まりつつあり、入居者が物件を選ぶうえでの検討材料のひとつになっています。東京都では独自の助成金を拠出し、2025年以降は新築マンションへのEV充電設備設置の義務化もスタートします。
この記事では、実際の事例を交えて、賃貸マンションへEV充電器を導入するメリットや注意点についてお伝えします。
集合住宅にEV充電器を導入するメリット
近年のEVの普及に伴いEV充電器の数も増えており、一般に「充電スポット」と呼ばれる公共用のEV充電器の設置個所は、全国で約2万1千カ所以上 *とガソリンスタンドの数の6割以上に匹敵します。
しかしEV充電器を導入している分譲住宅や賃貸物件はまだ少ないのが実情です。先述のとおり公共用のEV充電器も普及していますが、「自宅に帰れば必ず充電できる」という住環境の安心感と利便性は計り知れません。
したがってEV充電器は導入するだけで、競合物件と大きな差を付けられる住宅設備と言えるでしょう。
「充電器さえあればEVに乗りたい」という潜在層に注目
日本のEVの普及率は4%前後。まだ時期尚早という見解を持たれがちですが、将来的にEV購入を具体的に検討している人は非常に多いです。
2022年に日産自動車が実施したアンケート調査** によると、EVをまだ所有いないが検討している350人に対して「あなたはいつ頃からEVの購入を検討していますか?」という質問をしたところ、 “直近3年以内に検討した人” が77%を占めており、25%は「半年~1年以内」と回答しています。ここ数年で世間のEVに対する熱量は急速に高まっていることがうかがえます。
とはいえ実際にEVに乗っている人の数が増えない限りは、賃貸住宅にEV充電設備を導入するメリットはほとんどないと考えるオーナー様もいらっしゃるかもしれません。しかし「自宅に充電環境があるならEVに乗りたい」という前向きな意見にも注目です。
EV充電エネチェンジを設置した賃貸マンション「SHINE PEAKS 上越妙高」
同アンケートによればEVの購入に踏み切れない理由は充電環境の不十分さが挙げられており、まだEVに乗っていない購入検討者350名のうち、89%が「集合住宅に充電設備がないとEV購入が難しい」と回答しています。「住環境(充電設備がない)が理由でEVの購入をあきらめた経験はありますか?」という質問に対しては400名のうち約半数が「ある」という結果になっています。
画像出典:PR Times, 日産自動車株式会社 日本マーケティング本部
「自宅にEV充電器があるならEVに乗りたい」「将来的にEVに乗りたいからEV充電器のある物件に住みたい」というニーズは潜在的に広まってきており、まだEVを所有していない方々にも、EV充電器の利便性を十分に理解している人が増えています。
ご存じのとおり、戸建ての住宅と違い集合住宅では住民個人の一存だけでEV充電器を設置することはほぼ不可能です。そのため新しい交通インフラと称されることもあるEV充電器が設置されている物件は、それだけで大きな付加価値となるでしょう。
参考出典
・一般社団法人次世代自動車振興センター 公式HPより
・【EVと住環境についての調査リリース】集合住宅住まいの方のEV購入検討は、ここ3年で増加。一方で、集合住宅に充電設備がないことで購入が難しいと考える方が88.6%と判明。
設置事例①「充電器設置をきっかけに、EVに買い替えたい」
本記事の冒頭では「充電器さえあればEVに乗りたい」と考える潜在層の存在を指摘しましたが、実際にそうした隠れたニーズの存在を示す好例を紹介します。
神奈川県大和市にある賃貸マンションの「Grace Court YAMATO」は、2022年11月に6kWのEV充電器1基を設置しました。施工主の市川さまが、EVの将来性を見越して設置を決意。市川さま自身も「少なくとも自分が住んでいるマンションにはEV充電器がないと困ります」と語ります。
「Grace Court YAMATO」は1室あたりの床面積も広く、インテリアからエクステリアにまでこだわり抜いた高級感あるリゾートマンションに近い雰囲気の物件です。EV充電器の設置後、すぐに住民から「これを機にEVに買い換える」という声が複数あったとのこと。
近年、高所得層からはテスラやBMW、アウディ、メルセデス・ベンツのような海外の高級メーカーによるEVが注目を浴びています。高所得層向けの集合住宅であれば、地方・都心にかかわらず、EV充電器の設置は費用対効果の大きい空室対策となるでしょう。
設置事例②「地方はクルマ社会だからこそ、アパートにもEV充電器が必要だ」
佐賀県鳥栖市にある賃貸アパートの「GREEN WOODⅡ」は、2023年1月にEV充電器を設置しました。アパートに既設の太陽光パネルで発電した電気をEV充電に利用できる仕組みになっています。
オーナーである緒方さま自身が、高騰するガソリン代を負担に感じてEVに乗り換えたことをきっかけに、経済的な電気の供給方法を模索したとのこと。
同アパートに設置されたEV充電器は、住民でなくとも誰もが自由に利用可能。決済と紐づいたスマートフォンアプリで操作しなければ充電が始まらないシステムなので、不正利用・盗電のトラブルの心配もありません。
2035年までに乗用車の新車販売をすべて電動車にするという日本政府の目標も視野に入れ、「地方はクルマ社会だからEVの数も当然多くなる」と新たなニーズを予想して早期からEV充電を検討・導入しています。
設置後の運用で気を付けるべきポイント
この項では、EV充電器を設置したあとの運用について詳しくお伝えします。
- 高すぎる電気代・使用料では使ってもらえない
- 「充電の順番待ち」による不満
- 修繕・メンテナンスの課題
の3点についてそれぞれ順番に解説します。
高すぎる電気代・使用料では使ってもらえない
集合住宅での使用に適した「普通充電器」の設置初期費用は1基あたりおよそ200万円です。オーナーとしては早期にコストを回収したいところですが、居住者が支払うEV充電の使用料に過剰な粗利を求めるのはおすすめできません。
外出先での充電であれば多少割高な料金設定であっても、ドライバーは利便性に納得して使用料を支払いますが、自宅でのEV充電に割高な料金を許容するわけではありません。
電気代やアプリ基本使用料の価格設定に納得がいかず、自宅マンションにEV充電器があるにも関わらず、マンション外の充電スポットをわざわざ利用しているというケースもあります。
ほかにも、時間従量課金制は軽EVやPHEVの一部車種のユーザーにとってフェアでないという問題点も。料金設定や料金の徴収方法は、ニーズに合わせて慎重に吟味すべきです。
実際に充電利用するドライバーにとって、公正な料金体系と価格設定を心がけましょう。機器のスペックや使い勝手だけでなく、金銭的にもストレスフリーな環境を提供できなければ「EV充電設置による付加価値」は十分ではありません。
「充電の順番待ち」による不満
近年の性能のEVであれば頻繁に充電する必要はなく、毎日近所に買い物に行く程度であれば、1週間に1度充電すれば十分です。とはいえ、使いたいときに使えないストレスはなるべく排除するべき課題です。
下の図は集合住宅にEV充電器を設置する際の「個別設置型」と「シェア型」のイメージです。
「シェア型」と呼ばれる運用ーーつまり共用部の車室に充電器を設置する場合には「順番待ち」が発生する可能性があります。「順番待ち」を防ぐための解消策としては①各ユーザーの充電時間が短く済むよう、あらかじめ出力(kW)の高い普通充電器を設置する、②専用アプリで予約管理をする、の2点が代表的です。
修繕・メンテナンスの課題
EVドライバーにとって、EV充電器は生活に欠かせないインフラです。万一故障が発生した場合、迅速に対応できなければ、クレームへ発展する可能性もあります。
普通充電器は構造がシンプルでコネクタも軽量なため、急速充電器に比べれば故障の可能性が少ないことも特徴のひとつ。メンテナンスの必要はほぼありませんし、修理する場合のコストも低いのがメリットと言えます。
しかし「居住者・部外者による物損」「ソフトウェアの不具合」「受電設備の問題」などトラブルの要因はさまざまです。こうした想定外のトラブルに即時に対応できる保守・メンテナンス体制を整えておくことが求められます。
解消策としては保守契約のある業者への設置依頼、アフターサポートも整ったEV充電サービスの利用などが挙げられます。
まとめ
・集合住宅へのEV充電器の設置はまだ全国的に充分ではありません。したがってEV充電器は導入するだけで競合物件と大きな差を付ける住宅設備と言えます。
・「自宅にEV充電器があるならEVに乗りたい」「将来的にEVに乗りたいからEV充電器のある物件に住みたい」という潜在ニーズは確実に高まっています。まだEVを所有していなくてもEV充電器の利便性や必要性を十分に理解している人が増えています。
・実際の設置例も増えており、補助金を活用して設置したケースや住民以外にも充電器を開放するケースなど、さまざまな取り組みが行われています。
・設置後の運用も重要です。適切な料金設定や順番待ちに対する解消策、迅速なメンテナンス体制をどうするかについても、ぜひご検討ください。
【0円】無料でマンションにEV充電器を設置するには?
マンションなどの集合住宅に適した「普通充電器」を設置するには、1基あたり約200万円(税込)の機器・工事費用が必要となります。国の補助金などを活用しても自己負担は40万円程度です。
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※認証アプリ提供サービスでの、EV普通充電器(6kW)の設置口数(2024年11月1日時点、GoGoEV調べ)