電気自動車(EV)の火災リスクは本当に高い?安心して乗るために知っておきたいポイント
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電気自動車(EV)の普及が進む中で、「EVは火災が怖い」という声を耳にすることがあります。特に、可燃性の材料も使われているリチウムイオンバッテリーを搭載していることから、一度火災が発生すると消火が困難であるというイメージが先行しがちです。
しかし、実際のデータや技術的な進歩を見てみると、その懸念は過度なものかもしれません。本記事では、EV火災の実態や対策について解説し、EVの購入を検討しているドライバーだけでなく、EVやEV充電器の導入を検討している施設管理者の方々にも役立つ情報をお届けします。

EVの車両火災は実際に多いのか?
実は、EVの火災発生率は、ガソリン車と比較して決して高くありません。事実、アメリカの国家運輸安全委員会(NTSB)と運輸統計局(BTS)のデータに基づく調査によると、ガソリン車に比べてEVの火災発生率は低いという結果が出ています。
EV(電気自動車)の火災リスクは低い
アメリカの保険比較サイト「AutoInsuranceEZ」は2024年、国家運輸安全委員会(NTSB)と運輸統計局(BTS)のデータをもとに車両の火災発生率を調査しました。その結果、車両10万台あたりの火災発生件数は、ハイブリッド車が3,474.5台、ガソリン車が1,529.9台に対し、EVは25.1台と圧倒的に少ないことが明らかになりました。
【車種別の車両火災発生率】
車種 | 10万台あたりの火災発生件数 | 火災発生件数 |
---|---|---|
ハイブリッド車 | 3,474.5 | 16,051 |
ガソリン車 | 1,529.9 | 199,533 |
EV | 25.1 | 52 |
出典:Gas vs. Electric Car Fires in 2025 (Shocking Stats)| AutoinsuranceEZ.com
ガソリン車の火災リスクが高い理由
車両火災の原因でもっとも多いのは、エンジンや排気管の異常加熱、燃料漏れなどです。内燃機関を搭載するガソリン車は、常に可燃性の燃料を使用しているため、EVよりも火災のリスクが高くなる傾向があります。
EV火災の原因と対策
EVの火災発生率はガソリン車と比べて低いものの、バッテリーの損傷や充電中のトラブルによる発火事故が発生しています。具体的にどのような原因で火災が発生し、それを防ぐためにどのような対策がとられているのでしょうか。
EV火災の原因
世界的には、いくつかのEV火災事例が報告されています。代表的な事例として、以下のようなものがあります。
アメリカのテスラ車火災
2023年1月28日、米カリフォルニア州にて高速道路を走行中のテスラ・モデルSが突然発火、全焼する事故が発生しました。原因はバッテリーの不具合と見られています。
韓国のEV充電中の発火事故
2024年、韓国ではEVの火災事故が相次ぎました。8月1日に仁川広域市西区青蘿洞にあるマンションの地下駐車場で、メルセデス・ベンツのEV「EQE 350」が駐車中に突然発火しました。8月6日には錦山郡の立体駐車場で充電中のEVが発火する事故が発生しました。どちらもバッテリーの自然発火が原因と見られています。
リチウムイオン電池は発火しにくいが、鎮火しにくい
EVの電源に使用されているリチウムイオン電池は非常に高いエネルギー密度を持っているため、発火リスク自体は低いものの、一度燃え始めると鎮火しにくい特徴があります。実際に、アメリカで発生したテスラ・モデルSの火災事故では、消火に約23,000リットルもの水が必要でした。
EVの火災は対策が進んでいる
EVの火災の主な原因は、バッテリーセルの損傷やショートによる熱暴走です。しかし、近年の技術進歩により、以下のような対策が進んでいます。
1) バッテリーマネジメントシステム(BMS)の進化
BMSがバッテリーの電圧や温度を常時監視し、異常が検知されると即座に電流を遮断する仕組みが強化されています。
2)高度な冷却システムの採用
多くのメーカーが液冷システムを採用し、バッテリーの温度管理を最適化することで火災リスクを低減しています。
3) 衝撃安全性の向上
バッテリーパックを衝撃から守るための構造強化が進み、衝突時の火災リスクを最小限に抑えています。
日本におけるEV火災の件数
日本国内でもEV火災の事例は確認されていますが、その発生件数はごくわずかで、ガソリン車と比べても大幅に低い水準です。
国土交通省のデータによると、日本でEVの普及が加速した2022年から2024年の3年間における車両火災の件数は、乗用車・軽自動車を合わせて2022年が304件、2023年が294件、2024年が197件でした。そのうちEVによる火災は、2022年に1件、2023年に1件の計2件と報告されています。
万が一EV火災が発生した場合の対処方法
EV火災が発生した場合、迅速かつ適切な対応をとることが重要です。
1) すぐに車両から離れる
火災が発生した場合は速やかに車両から離れ、安全な距離をとります。
2)周囲に通報し、拡散を防ぐ
火災が周囲に拡がるのを防ぐため、すぐに警察や消防に通報し、避難誘導を行います。
3)消火活動は専門機関に任せる
リチウムイオンバッテリーの火災は、通常の消火方法では鎮火が難しく、専門的な対応が必要です。自身で消火を試みるのではなく、消防による専門的な処置が必要です。
EV充電設備の施設側が注意すべきポイント
EVの普及にともない、商業施設やマンションの駐車場にも充電設備の導入が進んでいます。施設管理者は、安全な運用のために以下の点に注意することが重要です。
1)充電設備の適切な設置
充電器の設置場所や配線が不適切だと、過熱による事故のリスクが高まります。専門業者による適切な施工と定期的な点検を行いましょう。
2)消火設備の準備
万が一の火災に備え、電気火災対応の消火器(ABC、BC、またはCタイプ)を設置しておくことが必要です。ただし、EV火災は感電や爆発の危険をともなうため、火災発生時は自力での消火は試みず、速やかにその場を離れて警察や消防へ通報してください。
3)緊急時の対応マニュアル整備
EV火災が発生した際の対応手順をあらかじめ決めておくことで、初期対応を迅速に行えます。
まとめ
EV火災は大きく報道されることが多いため、「EVは火災が怖い」といった漠然とした不安が広がりがちですが、実際の火災発生率はガソリン車に比べてかなり低いことが確認されています。日本国内でも、EVによる火災事故は非常に少ない状況です。
ただし、万が一火災が発生した場合は鎮火しにくいため、リスクを理解し、適切な対処法を知っておくことが重要です。
